研究活動

 

 How do proteins shape, interact and function in a living cell?

細胞内タンパク質の機能とふるまいは、「立体構造領域」と「非構造領域」の協調により発揮される

従来の分子生物学・生化学・タンパク質科学の多くは、「タンパク質の特異的機能は高次構造により決まる」という大前提の上に進歩してきました。立体構造が酵素ー基質間およびタンパク質間の「特異的相互作用」を可能にし、細胞内部という分子夾雑空間でも「特異的反応」を進行・制御することが可能になります。結晶構造解析やクライオEM等の「立体構造解析」、およびKD、KMというパラメータで記述される化学反応は、この大前提に基づいています。

しかし、プロテオミクス・インフォマティクス解析の結果は、立体構造を持つ領域がヒトプロテオームに占める割合は6割程度に過ぎず、残り半分は「立体構造を持たない領域 (Intrinsically-Disordered Region, IDR)」であることを示しています。非構造領域の役割やはたらきは、長い間理解が遅れていましたが、近年、液-液相分離やハイドロゲルを形成することが報告されると、脚光を浴びることとなりました。IDRは、「構造を持たないから意味がない」のではなく、構造がない故の重要性があると考えられ、今や、「立体構造領域と並んで、生命現象を記述する必要不可欠な要素となりました。

我々の研究グループではこの構造を持たないタンパク質領域のはたらきや細胞内でのふるまいに着目しながら、様々な生命現象の「未知の仕組み」を解明する研究をおこなっています。

 

現在進行中のプロジェクト

 

Regulation of “charge block”–driven LLPS by phosphorylation
リン酸化による「電荷ブロック駆動型」LLPS制御のメカニズム

タンパク質が相分離を示す仕組みはこれまでにいくつか報告されています。我々は「電荷ブロック駆動型」の液ー液相分離の生物学的重要性を世界に先駆けて報告し、リン酸化等の翻訳後修飾による制御機構を解明しました。これは、「リン酸化は何故IDRに群がるのか」に対する1つの答えとして注目を浴びています。

2020 BBA Prot. Proteom. / 2021 FEBS Lett. / 2022 Nat. Cell Biol. / 2023 生化学 / 2023 生物物理

 

How protein LLPS deforms plasma membrane during endocytosis
生体膜近傍におけるタンパク質相分離と膜変形の分子機構

生体膜のようなソリッドな基板表面における分子集合は、相分離の重要な駆動力として機能しています。我々は、エンドサイトーシス過程における一連の分子集合における相分離の役割と、局所的な膜変形過程との関係を独自のイメージング技術を用いて解析しています。

2018 PLOS Biol. / 2021 J. Cell Sci. / 2022 bioRxiv

 

How IDRs form a “selective barrier” within the nuclear pore complex
核膜孔複合体の構造と機能におけるIDRのはたらき

細胞質の核質との間の分子輸送は、核膜に存在する核膜孔を通しておこなわれます。核膜孔の中心部はIDRで満たされた選択的バリアとして機能していますが、その構造的基盤は不明です。我々の研究室では、その仕組みを理解すると共に、核膜孔を通過する分子の構造的性質を解明する研究をおこなっています。

2008 PNAS. / 2013 J. Cell Sci. / 2014 Structure / 2016 Mol. Biol. Cell / 2017 Sci Rep. / 2020 FASEB J. / 2020 Cell Rep.

 

LLPS in host-virus interaction
宿主ウイルス間相互作用におけるLLPSの役割

ウイルスタンパク質中に占めるIDRの割合は、真核細胞よりも高いことが知られています。これは、限られたタンパク質リソースを有効活用するためのウイルスの戦略であると考えられています。ここでは、ウイルスの生存戦略と、それに対抗する宿主細胞の免疫システムとの戦いを、IDRや相分離という視点で解明します。

2021 Viruses

 
  

Developing live-cell imaging techniques
原子間力顕微鏡を用いた細胞表層のメカニクス

我々のグループでは、生細胞観察用の高速原子間力顕微鏡技術を用いて、細胞表層の力学性質や細胞膜のダイナミクスをナノメートルスケールでライブ観察する技術の開発をおこなっています。また、この技術と従来の力学測定技術を統合し、組織や発生胚における力学性質の役割を解明する研究をおこなっています。

2008 J. Microscopy / 2008 PNAS. / 2017 Microscopy / 2018 PLOS Biol. / 2023 under revision

 
 

Cellular responses againt audible range of acoustic stimulation
可聴域音波刺激に対する細胞応答の探索と利用

環境に存在する様々な物理因子の中でも、音波に対する細胞応答は科学的追究が進んでいない分野です。我々は独自に構築した細胞音響システムを用い、音波刺激が遺伝子・代謝・細胞分化などに与える影響を明らかにするとともに、音響システムを用いた細胞操作技術の開発を目指して研究を進めています。

2018 PLOS One