(旧)研究室の歴史

 当研究室は、1988年、ヴァージニア大学の生物物理教室にて誕生しました。当初の主な研究テーマはP-type ATPaseの分子構造と機能の解明であり、同時に原子間力顕微鏡(AFM)を生物試料に用いる取り組みを進めてきました。当時はまだAFMの技術もそれほど発達しておらず、様々な困難がありましたが、試行錯誤を繰り返しつつ、AFMによって液中でナノメートルスケールで生体試料を観察する手法を開発・発展させてきました。当初からの「イオンポンプがイオンを汲み出している様子を観察したい」という願いは、2011年になってようやく叶ったところです。開いた核
 オハイオ大学における1992-95年の研究期間は、どうしたら生体試料をAFMで観察可能な状態で取り出すことができるか、その技術開発に懸けた日々でした。研究対象としては、当初のP-type ATPaseの研究はほっておいて(当時では技術的に難しすぎたので)、DNAとDNA結合タンパク質を選びました。これは当時でも冒険でしたが、新しい分野を切り開くという意味でとてもよい選択であったと思います。このDNA関連の研究は京都に移ってから大いに発展しました。
  1995年に京都大学に赴任してからは、計測技術の進展とも相まって、研究は更に多彩に発展しています。走査技術の転換による高速液中AFMや、カーボンナノチューブを用いた超高解像度イメージング、蛍光顕微鏡と組み合わせたハイブリッドイメージング、探針修飾技術を駆使した一分子間力測定や認識イメージングなど、AFMができることは大きく広がり、生物学における強力なツールとして機能し始めています。研究対象も、細胞膜・受容体・DNA・DNA結合タンパク質に加え、核膜・核膜孔・輸送タンパク質・骨格タンパク質などへと広がり、生物学の知見と物理化学的思考とを組み合わせながら研究を進めています。
 これまでの研究の進展によって、我々は新しいバイオロジー、「ナノバイオロジー」を確立してきました。これによって、様々な生命現象、例えば、DNAとタンパク質の相互作用・ゲノムフォールディング・細胞周期に応じた細胞核の構成など、に対し、「ナノメートル」・「ピコニュートン」・「ミリ秒」のレベルでアプローチすることができます。この新たな手法で、これまでには見ることができなかった生命現象の新たな側面を明らかにしようと、日々研究に取り組んでいます。

代表的な研究業績はこちら

研究活動:
我々の研究内容は、ナノバイオロジーの観点を基として、分子から細胞まで様々な生命現象を対象としています。
 1)細胞膜と膜タンパク質: 膜融合の仕組み、イオンチャンネルや受容体の構造と機能
 2)細胞核の構成と機能: ゲノム構造解析、核膜と核膜孔の機能、核内小器官
 3)細胞骨格の動態: 難溶性細胞骨格、細胞骨格タンパク質の核内での機能
これらの研究は、多国間に渡る世界規模の共同研究によって進められています。これまでにも、JSPSやHFSPなどの研究プログラムの支援を受けて、日本-インド、日本-英国、日本-スペインといった二国間での共同研究をはじめとして、様々な研究者との連携の下、研究を進めてきました。

教育活動:
我々の教育方針は、世界と渡り合える学生の育成と、博士号取得に向けたhands-on / minds-onの教育を行うことです。我々は5つの英語講義を提供しており、博士課程の学生はこれらの機会に研究の最先端の英語に触れることができるほか、海外との共同研究に従事することになれば1~3ヶ月程度の期間で海外の研究室に滞在する機会も得られるでしょう。
 博士号を取得しファーストクラスの研究者として研究を進めていくためには、様々なスキルを得ることが必要です。我々は個々の学生に対し、技術力/解析力、読解力/記述力、独立性/協調性、独自性/生産性など、研究者として必要なスキルの取得をサポートしていきます。

社会活動:
研究室スタッフは、研究誌や研究費のレビューを積極的に行います。また、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)プログラムに積極的に貢献し、高-大連携の取り組みを推進します。これまでに、様々な高校(膳所高校、西大和学園、三国ヶ丘高校)と連携し、特別講義や実習を提供してきました。これらの取り組みには、ティーチング・アシスタントとして、研究室の学生が直接・間接的に協力しています。