DNAとDNA結合タンパク質の構造と動態
【DNA持続長と相転位】
DNAは、その二重らせん構造に起因するさまざまに特徴的な物理的性質を持っています。我々は、原子間力顕微鏡を用いて、DNA自体のトポロジーや結合タンパク質によってスーパーコイル(超らせん構造)の形成と緩和が誘導される様子を明らかにしました。緩んだ状態のDNAはある程度の歪みを吸収する物理的柔軟性を備えていますが、過度の歪み圧力がかかると瞬時に劇的に構造を変化させてスーパーコイルを形成します。このことは、DNAの構造変化には閾値があり、閾値に近い状態で何らかの刺激を受けると瞬時にその構造を大きく変化させることを示しています。
DNAの性質は、その長さによっても変化します。短いDNA(100nm=~250塩基対以下)は曲がりにくく、中間の長さのDNA(100nmから4µm)は高い柔軟性を持ちますが、興味深いことに、長いDNA(>4µm)は、中間の長さのものより柔軟性が少ないことが分かりました(self-avoiding walkの効果)。また、100キロ塩基対以上の巨大なDNAを用いた解析から、長大なDNA分子が様々な凝集因子に応じて、伸長した状態からコンパクトな状態へと相転位を起こすことを明らかにしました。我々は、このようなDNAの物理的特性は、転写・複製・組換えなどの様々なDNAの機能制御に大きく関係していると考えています。
【DNAとタンパク質の相互作用】
DNAの構造は、様々なDNA結合タンパク質によって制御されています。我々は原子間力顕微鏡を使って、コンデンシン・TRF(telomere repeat binding factor)・Bach1/MafK(転写因子)などのDNA結合タンパク質とDNAとの相互作用の様子を一分子レベルで解析し、それぞれのタンパク質がDNAと特徴的な構造を形成することを明らかにしました。また、DNAとヒストンが形作るヌクレオソーム構造を試験管内で再構成し、コアヒストンとリンカーヒストンによるDNAの階層的高次構造形成の基本原理を明らかにしてきました。
【相同組み換えの分子メカニズム】
相同組み換えは、DNA組み換えや複製フォークの停止解除など様々な場面で機能している重要な細胞内メカニズムであり、この機構は複数の過程からなる複雑な分子協調によって制御されています。我々は、枯草菌(B. subtilis)のシステムをモデルとして、DNA末端を認識するRecN・DNA鎖交換を行うRecA・ホリデイジャンクション構造を解消するRecUなどが、どのようにDNAと相互作用するかを明らかにしてきました。また、これらの因子とDNAとの相互作用の動態を解析するため、液中高速原子間力顕微鏡を用いた一分子動態観察の手法も用いて研究を進めています。